目の前を小さい羽毛のようなものが舞う。

綿毛をまとった種だ。六月に入り、日差しは垂直にますます差しかかり、一年で最も長く輝くようになる。樹々の緑は光を捉え、葉脈が浮き上がり、地面に色濃い影を落とす。光に照らされて綿毛をまとう種は白く光り、僕の目の前をいくつも流れ過ぎていく。

風に乗り、車が通り過ぎるたびに巻き上がり、歩く人々に絡みつき、遠くへ。元いた樹の枝から遥か遠くへ。

やがてどこか地面に落ちつき、雨を待つ。時に根を生やし、時にそのまま朽ち。

旅の終わりが何になるか知れず、でも、今は軽やかに舞っている種を、僕は眺めている。

樹々はどんな夢を見るのだろう。生えている地面を伝ってくる、散歩する犬の軽やかな足音、ベンチに横たわる酔っ払いのいびき、寄り添う恋人達の囁き声、ダンスの練習に励む学生達のステップ。あるいは、そこにたどり着く前、綿毛にくるまり風に乗って眺めた街の、路上で焼かれる香ばしいチキンの匂い、通りに流れるレゲエ、夜中にひと時留まった軒先で聞いた、狂人の喚き声…

止んでいた風がまた吹き始めた。また綿毛が湧き上がる。僕はその一つを目で追う。

風のひと吹きで飛び去った。今日は風が強く吹く。

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