小型のモーターを内蔵した機器から断続的に微かに鳴り続ける、ヘアドライヤーのような音を背景に、呼吸を補助するための機械が発する、溜息にも寝息にも似た音が僕の右から聞こえる。何かのクリック音。左からは寝返りを打つ時の布団の擦れる音。廊下の奥から微かに聞こえるナースコールはサイレン音で、それに続いて看護師の歩く足音も。

弱りきって眠る人の気配は、こうして聞こえる音の向こう側にうずくまるようにあって、僕もその一部なのかと思うと、少し滅入る。

何もすることがなく、動きを制限されてしまうと、少しは妄想が自分を連れて出してくれるのでは、と思ったが、見上げて見える天井の染みは染みのままで、物語を紡ぐことはなかった。

誰かが寝言で言葉にならない叫びをあげ、また寝静まる。

妄想は立ち上らないが、いろいろな”もし”は頭に浮かんでは消える。この怪我は幸運だったのか、そうでもないのか…

一番嫌なのは、指を損傷してしまう事だな、と想像する。他にさして出来る事もなく、それなりな年齢に足を突っ込んだ人間に残った選択肢がこのご時世にあるとは思えない。それなら一気に首の骨でも折って一発でおさらばした方が、よっぽどましだと思ったりもする。

そういう意味では回復すればほぼ元どおりなのは幸運なのだろう。まだなんとかなりそうだから。

でも、横たわって頭の中に音像を結ぼうとすればすれほど、周りからひたひたと迫ってくる静かな音が耳につき、ひたすら天井を眺めて夜が更けるのをじっと耐えている自分しか見出せない。

僕は病院の音は嫌いらしい。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中