それは、ふとしたきっかけではじまる。まるで、そよ風が静かな水面を撫でて起こすかすかな波のよう。その波は岸辺にうちつけるほどに強くはなく、沖合で静まるほんのひと時の揺れだけれど。

でも、やがてその波はくりかえし起こるようになる。そよ風が度々吹くようになって。ついには波は僕の心の岸辺にたどり着き始める。波は止まらない。岸辺がざわめき始め、僕は小舟に乗って確かめにいくことにする。

霧の中を漕ぐのは少し緊張する。どこに向かっているのか、うまくいくのか、少し不安でもある。でも、いつしか霧が晴れ暖かく陽が差し込むようになり、そこにいることに心地よさを感じ始める。それまでに感じたことのない温もり。小舟からアンカーを降ろしてその場に留まりたいと思う。揺らめく水面に反射する光が輝く波となって僕を包み込み、柔らかくほのかな甘さをたたえた空気が体に静かに染みこんでいく。その中で一つになって溶けてしまいたいと感じ始めた時に、衝動に貫かれたように僕は貪るように果実を貪り尽くす。

それは衝動であったけれど、それまでの言葉の積み重なりと、言葉にはならないけれど、とても心地よい微細な空気の共振の行き着くところなのに違いなく。

衝動はやがて心の大伽藍を震わし続ける鐘の音のように幾重にも重なり響き渡る。僕の心は常に響いている。時に激しく。時に穏やかに。速く、遅く。何度も。空を満たし、積み重なった石の隙間に染み込むように伝わり、うっすらと遠くに見える小高い丘のうねりの中へ広がっていく。余韻が残り、そこから再び欲し求める感情に彩られた一編の歌が生まれ。次から次へとそれが続く。終わりなく巣を編み続ける鳥のように。

最初に味わった感覚が色褪せることなく何度も訪れる。以前は同じことの繰り返しだと思っていた波が、今は一つ一つ特別になる。空、雲、さざめく樹々、はばたく鳥を写しこみ、時間によって変化する陽光を反射して揺らめく波は一つとして同じものがなく、見るたびに新鮮な気持ちになる。

きっと、大切なものを見つけたんだ。

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