ツバメが低く飛ぶ。細い路地を、地面すれすれまで。

子供の頃、いわゆる団地に住んでいたことがある。5月ぐらいになると、毎年団地のそこここにツバメがやってきて、泥をこねて巣を作っていたものだ。しばらくすると雛が孵り、ボワボワの綿の塊に大きな嘴を開けてグジュグジュ。賑やかにしていた。

都市が発展し、その裾野を郊外までおびただしく広げる今となっては、そんな光景も随分減ったものだ。そんな中でも、例えば僕の住まいの周辺は、まだ畑や用水路があり、人通りも少ないせいか、ツバメがやってくるのだ。

近所の集合住宅の地上階が車庫になっていて、そこに毎年一つがいのツバメのカップルがこの時期になると現れて、巣を作っていた。同じカップルではないと思うが、いずれにせよ、毎年必ず訪れるのだ。でも、今年は、まだない。

去年のこの時期。夜道を歩いていたら、暗い時間なのにツバメが駐車場に飛び込んでいった。あまり夜中にツバメが飛ぶのをみたことがなかったので、怪訝に思い駐車場を覗き込んでみた。また巣を作っているのだろう。

駐車場の天井に通った梁のところにあったのは、かすかにそれと分かる程度の泥のかけらだけ。ツバメの巣はことのほか頑丈で、はがれ落ちるということはないはずだ。力を込めてこそげ落としたか、棒で突いて崩したか。

ツバメの巣の下にはフンがたまる。この駐車場の管理人はそれを知っていて、毎年ツバメの巣の下にフンを受けるための板をあてがい、真下に駐車する車にフンがかからないようにしていた。この時もベニヤ板が在った。そして、その上に、先ほど駐車場に飛び込んだのであろう、一羽のツバメがうずくまっていた。一羽だけ。

それから、毎晩気になって駐車場を覗き込んだ。薄暗い蛍光灯の明かりの中に、ぽつんとうずくまるツバメ。近づいても、逃げない。動きもしない。小さく呼吸して、胸が膨らむのがかろうじて生きていることを示す。

幾日も。何日も。

やがて、ベニヤ板だけが残り、そのツバメはいなくなった。そして、夏がきた。

今年もツバメ達がやってきて、軒先をかすめ飛ぶ。ツバメが低く飛ぶときは雨が降るという。

でも、僕の胸の内にやってくるのは、かすかに呼吸をしている、あの、うずくまったツバメだ。

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