Tony Malabyは、ポール・モチアンの最晩年のバンドやチャーリー・ヘイデンのリベレーションオーケストラにいたり、実はミシェル・ポルタルのアルバムにも混じっているという、なんとも豪華な経歴の人だ。ジャズプレイヤーとして知られているとは思うが、その本質はimprovisationを心底愛するナイスガイだ。

メッセージの終わりはいつも、T。

これは、そんなTに会いにいく、それだけの話。

住まいは、ジャージーシティ。マンハッタンから、パストレインというハドソン川を越える電車でたどり着く。家は駅から歩いて10分くらいの距離。ただ、この時は8月。暑い夏の盛りに、クソ重い楽器を担いで苛烈な光の下を歩くのはなかなかにこたえる。東京と違い、NY界隈は比較的乾燥して過ごしやすいのだが、その分、日差しが刺すようにきつい。

ジャージーシティはブルックリンやマンハッタンとも違い、庭のある一戸建ての建物も多い。ただ、どことなく寂れた印象の町だ。最盛期を過ぎたベッドタウンのような感じ。

目的の住所の場所に着くと、半地下のガレージのある家があったので、フェンスを開けて玄関に周ろうとした瞬間、嫌な予感がした。教えてもらった番地と違うのだ。僕が高校の頃、アメリカに短期留学しに行っていた一学年下の学生が、人の敷地に入り込んで射殺されるという事件があったのだが、それをふと思い出した。

ここで撃たれても仕方ないけど、やっぱりそれは嫌だ。と、変な諦め方をしながら躊躇していたら、たまたま外出しようとしていた隣の住人が大声で、僕に、裏にまわれ、トニーだろ?と教えてくれた。おかげで、僕はこれをこうして書いている。

半地下のガレージは、僕が間違えかけた家の一部ではなくて、トニーの家のガレージだった。半地下の平屋と、地上階の平屋。それぞれが別個のファミリー。少しほっとしながら、裏側に回り階段を降りる。頭をぶつけそうなぐらい低い扉を開けると、そこがリビングだった。エアコンが効いて快適だ。世間話をしながら見渡すと、壁にダニエル・ユメールのスケッチが貼ってある。そう。ダニエル・ユメールともアルバムを作っているんだっけ。

カウチにゆったりと埋まり、穏やかな顔でトニーが問いかける。
“What is your goal?”

”Wana travel around the world and play with various musicians like you.”

トニーは軽く頷き、エアコンのスイッチをきる。おもむろにソプラノを構え、静かに眼をとじた。

トニーとのセッションは楽しい。まるで、楽器を初めて持って出した音一つ一つに喜ぶかのように。リードの軋む音、ピッチになる前の息の音。キーの閉じる音、息を吸い込むごく僅かな音。音と音の間が、期待に満ちて響き、静謐かつ豊かで色鮮やかな時間を描くのだ。そして時に力強く高らかに唯一無二のその音をぶちまける。

メロディーやハーモニーやリズムにフォーカスしがちな耳に、「世界はこんなにいろいろな音楽に溢れてるんだせ、」と気づかせてくれるような。実際、外に出て、鳥の歌を聴きながら吹いたりするんだそうだ。いい練習になるぜ、とにこやかに話す。そういえば、南米の鳥のさえずりをそのまま楽器でコピーしたメロディーを教えてくれたっけ。

“Open your mind.”

セッションの間切っていたエアコンをつける。トニーがおもむろに、これ知ってるかい?と言って日本のインプロヴァイザーのドキュメンタリーを見せてくれる。制作したのは多分日本の作家ではないと思う。その中で座談会のシーンがあり、「大人っていうのは、会社に入って、家庭を持って、一軒家を購入して… それに違和感を感じる…」と一人が言った。トニーがボソッと”Fuckin’ American style…”。ああ、俺、この人と気が会うなあ。と思った。

帰り際に、

“Keep playing.”

静かに一言。

また会おう、とお互いに言って、低い扉に頭をごつんとしこたまぶつけて、家をあとにする。

ジャージーシティの駅へ。まだ容赦無く降り注ぐ午後の太陽の光の下をフラフラになりながら、でも満足して歩いた。

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