episode 2 “早漏れ号に乗って”

「女神アーフレの聖水シリーズもいよいよ2000話を数えますね。最近のキャラクター”ミス・ボンデージ”もかなり好評のようです。そこで、シェイブーキーさんにお願いがあるのですが。。」セイクリッド&スプラッシュ社の編集者が珍しく俺に提案をしてきた。

「女神アーフレのコラボレーション企画が持ち上がりまして。シェイブーキーさんはダンコーンシティに行かれたことはありますか?」

ダンコーンシティといえば、俺の親父の出身地だったはずだ。はず、というのは、俺の親父がそのことについて、あまり話したがらなかったので、何となくそんな気がする程度の事だからだ。

ダンコーンシティは過去に砂金の採れる街として発展した。一説にはフィンガーティップジョイという気まぐれ神の仕業だとか。そして金の採れる場所にお決まりの事だが、国中の暴力と腐敗を吸い寄せ、ありとあらゆる犯罪の博物館と化した街として名を馳せるようになった。今では砂金は枯渇し、溢れるのは人々の剥き出しの欲望ばかりとなった。殺人事件発生率も全国統計で飛び抜けて高く、強盗に至っては、奪った金の幾ばくかを納税すればお咎めなし、なんて噂もあるぐらい。警察は当然マフィアの出先機関のようなものだし、政治家はコングロマリットの経営者とベッタリで、その経営者自体がマフィアのボスでもある。そんな街だ。

「行ったことはないですね。なんでまたコラボレーションとダンコーンシティが関係を?」

「アーサーの秘肉屋、ショパンの指先、そしてクーガの蜜壺という三つの有名風俗店が、シティにあるんです。三つの店は経営母体がGoldenSplashersという会社でしてね。そこが、女神アーフレプレイを2000話に合わせてサービスとして企画・提供したいとのことなんですよ。そこで、シェイブーキーさんには、こちらの三店に出向いていただいて、どんなプレイを提供するかの打ち合わせをして欲しいんです。いや、そんな事は物書きの仕事ではないのはわかっています。ただ、シェイブーキーさんの、そう、例えば、ミス・ボンデージのSM講座みたいなものは、プロの風俗店でも思いつかなかったアイデアが満載だそうで。」

「とにかく、2000話に向けて、あっと驚くようなプレイをシェイブーキーさんには書いていただきたい。そして、それを実際に体験できる場所があり、店のPRもできる。そして女神アーフレシリーズも更に注目度が上がる。そんなところです。そして、もしこれがうまくいったら、あなたをゴーストライターとしてではなく、Mr.フラッドの後継として正式に女神アーフレシリーズの作者として正式に発表しても良いと思っています。」

俺にとっては、今更ゴーストライターの仕事から正式な作家になったところで何も変わらないのはわかっていたから、どうだって良い話ではある。だが、金を出してもらって、暴力都市に行くのも悪くないのかもしれない、とも思い始めていた。自分のルーツを辿ってみるのは、絶望に真綿で首を絞められる日々に幾分気休めを与えてくれるかも、だ。

俺の住んでいる、ニョータイリバーシティからダンコーンシティまでは、minute man express通称「早漏れ号」で5時間。名前の割に時間がかかるが、夜行バス「夜這い号」よりは全然マシだ。

ということで、朝6時の始発の早漏れに乗り込み、俺はダンコーンシティに向かうこととなった。

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